自衛隊のお仕事 ~陸上自衛隊「化学科」「輸送科」編~
化学科のお仕事……キーワードは「NBC」
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に引き続き、陸上自衛隊のお仕事解説です。
これまで、
○普通科→自分の身ひとつ(+小さめの武器)で戦う人たち
○施設科→土建屋さん+地雷処理
○通信科→固定電話、携帯電話、ネット回線的なお仕事
○機甲科→戦車と偵察を担当
○野戦特科→地上に向かって大砲ドーン!
○高射特科→空に向かってミサイルドーン!
○航空科→飛行機とヘリコプター
をご紹介してきました。今回は、
○化学科
○輸送科
を詳しく見ていきたいと思います。
ではまず、化学科から。
化学科は、ざっくり言うと「生物・化学兵器、放射性物質とかに対応する」というお仕事です。
近年、戦争やテロへの対処では「NBC」という言葉がよく使われるようになりました。
「NBC」とは、「Nuclear(核兵器)」「Biological(生物兵器)」「Chemical(化学兵器)」の頭文字を取った言葉。
「NBC」は、目に見えない特殊な武器です。
他の職種は基本的に火砲(銃や砲、ミサイルなど)による攻撃から日本を守るというお仕事なのですが、化学科は「NBC」という特殊な武器に対応する特殊なお仕事です。
原発事故、地下鉄サリン事件といった特殊な現場で活動
(陸上自衛隊HPより)
では、化学科は具体的にどんなことをするかというと……。
化学科の活動のうち、みなさんのご記憶に新しいのは、2011年に起こった東日本大地震による福島第一原発の事故対応ではないかと思います。
あの事故は、放射線が関わる特殊な災害だったので、化学科の隊員がその対処にあたりました。
(ヘリからの放水は航空科の隊員が、除染作業には普通科の隊員も……など、他の職種の隊員も活動しました)
そして、化学科の活動といえば、もうひとつ大きなものがありました。それは、1995年に起こった地下鉄サリン事件。
このとき、化学科の隊員は地下鉄車両内や駅構内の除染作業を行いました。水でサリンを洗い流す、という作業です。
(こちらも、福島第一原発事故と同様に、化学科の隊員だけでなく、普通科の隊員も除染作業に参加しました)
とっても暑い防護衣。マスクではヒゲの制限も
(陸上自衛隊HPより)
NBCは鼻や口から吸い込んだり皮膚に触れたりしただけでとても危険なので、現場で活動する隊員は「防護衣」「防護マスク」というものを着用します。
やけに重装備なごわごわした上着や長靴を着て、ガスマスクのようなものを顔に着けてる隊員……みなさんも、テレビなどで一度は見たことがあるのではないでしょうか?
防護衣も防護マスクも、外気を完全に遮断するようにできています。通気性はまったくのゼロ。
なので、夏はとっても暑くなります。私は夏場に長時間着用した経験はまだないのですが、経験者の化学科隊員さんによると「靴の中が汗でチャポチャポになる」んだそうです。大変です。
でも、「暑いから」って脱ぐことはできません。命に関わりますからね。
さて、ここで防護マスクに関する「自衛隊トリビア」をひとつ。
自衛官は、アゴヒゲを生やすことは禁止されています。なぜかというと、「アゴヒゲがあると防護マスクが顔にピッタリ密着できなくなるから」。
外気を完全に遮断するために、防護マスクは顔にピ~ッタリと密着させて着用しなければなりません。隙間があると、命に関わる物質を吸い込んでしまいますから。
なので、自衛官はアゴヒゲを生やしてはいけません。長期休暇なんかだと生やしている人はいますが……でもこれは「アゴヒゲ」というより「無精ヒゲ」かもしれませんね。
一方、口の上のヒゲはというと、「基本的にはNGだけど、部隊長の許可を得れば生やしてもOK」です。
中東など、成人男性が口ヒゲを生やす習慣のある地域に海外派遣に行く隊員は、現地のTPOに合わせて口ヒゲを生やしてから行ったりすることがあります。
自衛隊の活動に必要なたくさんのモノを運ぶ、輸送科
(陸上自衛隊HPより)
では次、「輸送科」。
輸送科は、ざっくり言うと「ヤマト運輸とか日通とか佐川急便とかの陸上自衛隊バージョン」な、お仕事です。
要は、「運輸」「物流」……そのまま「輸送」ですね。
自衛隊の活動では、たくさんの「モノ」が必要です。それらを運ぶのが、輸送科のお仕事。
いろんな部隊が必要なものを、全国どこでも……そして海外にも運びます。
もちろん、活動する部隊も自分たちで持って行けるものは持って行きます。が、大量の物はそうはいきません。
そこで、輸送科の隊員がいろんな物をトラックに積んで運転してあちこちに運びます。海外の場合は船や飛行機に積みます。
車もヘリも運ぶ!手続きも大事なお仕事
(陸上自衛隊HPより)
そして、大量の物だけでなく「大型の物」も運びます。
例えば、車両。「この活動地域にこの車両が必要だ」となった場合。
活動地域が近い場合は車両をそのまま運転して行けばいいんですが、あまりに遠い場所や海を渡る場合、海外には車両を運転して行けません。
そんなとき、輸送科の隊員は車両をヘリコプターや飛行機、船に積みます。
そして積むだけでなく、「航空科の部隊さん、◯月◯日にこの車両を運びたいんですけど、輸送ヘリを使わせてもらえませんか?」とか、「海上自衛隊さん、輸送艦をお願いできませんか?」とか、「航空自衛隊さん、輸送機を……」といった手続きを行うのも、輸送科の大事なお仕事です。
また、「この活動地域にヘリコプターが必要だ」となった場合は、ヘリコプターが自分で飛んで行けば良さそうなものですが、ヘリコプターは長距離を飛行できないため、海外派遣などではやっぱり艦艇や飛行機に乗せて運ばなければなりません。
こんなときも、輸送科の隊員が「ヘリコプターを輸送する」の手続きをします。
企業と協力して戦車も運ぶ。そして一番大事な輸送は……?
(陸上自衛隊HPより)
また、戦車も同じです。大量の戦車を北海道から九州に運ぶ……なんてことが必要な場合もあり、このときも輸送科の隊員が海上自衛隊の輸送艦で運べるようにします。
海上自衛隊だけでなく、海運企業に協力してもらって運ぶこともあるのですが、この企業との橋渡し役も輸送科の担当です。
そして、戦車は船だけでなく鉄道を使って運ぶこともあり、このときは輸送科が自衛隊の窓口となり、JRと協力します。
そして、輸送科が運ぶのは「物」だけではありません。活動にはいろんな「物」が必要ですが、物と同じくらい……いや、それ以上と言ってもいいかもしれない大事な大事な「◯◯」が必要です。
それは、人。活動する隊員です。
こちらも、活動する部隊が自分たちのトラックで移動することもあるのですが、多人数だったり、遠距離だったり、海外だったりと場合によっては他の手段に頼らざるを得ないため、輸送科がその手続きをします。
海外への輸送ではいろんな苦労が絶えません
最近の自衛隊は、海外での活動が増えてきていますが、それにともなって輸送科も大忙しになってきています。
海外には、現地の法律、宗教や文化で「持ち込んではいけないもの」があり、中には「航空機が給油のために一時的に着陸する」だけでも「積んでいてはダメですよ」なものもあり、とてもご苦労をされているようです。
さて、今回は化学科と輸送科のご紹介でした。
なかなか聞きなれないお仕事だったかもしれませんが、化学科の部隊、輸送科の部隊も全国にたくさんあります。
みなさんがこれから出会う自衛官の中にも化学科・輸送科隊員がいらっしゃるかもしれません。
みなさんがお住いの地域の駐屯地にも、化学科・輸送科部隊があるかと思いますので、ぜひチェックしてみてくださいね!
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