今さら聞けない素朴なギモン~自衛隊って普段はなにをしているの?【1】
災害派遣でしか見ることのない自衛隊。しかし、それ以外にも……。
「自衛隊って普段はなにをしているの?」
自衛隊関係のお仕事をしていると、周りの女子たちからよくこう聞かれます。
テレビや新聞などのメディアに登場する「自衛隊の活動」は、地震や水害、救助などの「災害派遣」がほとんどなので、「災害がないときって自衛隊はなにをしてるんだろう?」と思ってしまうのも無理はありません。
「自衛隊って普段はなにをしているの?」
この答えは、大きく3つあります。
①国防の活動
②国防や災害時の活動ための訓練
③活動や訓練のための業務
です。
ということで、今回からは「自衛隊が普段している3つの活動」をお勉強してみましょう。
戦争中じゃなくても行っている、「国防の活動」
自衛隊が普段している活動、その①「国防の活動」。
現在、日本は戦争や紛争の状態(有事)にはなく、平和な状態(平時)です。「国防」という言葉を聞くと、「戦争のときにする活動」「平時にはやらない活動」と思ってしまいがちなのですが、実は「有事」ではない「平時」の今このときにも、国防の活動は行われています。
例えば、航空自衛隊が行っている「対領空侵犯措置」。
みなさんも、ニュースなどで「スクランブル発進」という言葉を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。4月には、
「2016年度のスクランブル発進が過去最多の1168回に上った」
というニュースが話題になりました。
参考:空自スクランブル、過去最多1168回 対中国機が増加(朝日新聞デジタル)
対領空侵犯措置→日本の空を守る活動
この「対領空侵犯措置」、「スクランブル発進」はどういう活動かというと、「日本の領空へ不法に入って来ようとする航空機への対処」です。
私たちが乗るような旅客機など、普通の航空機の場合は、あらかじめ「日本の空に入りますよ」「分かりました」というやり取りが行われるのですが、そのような連絡のない怪しい航空機が日本の領空に入ろうとすることがあります。
そんなときに行う活動が、「対領空侵犯措置」です。
自衛隊は、レーダーなどで常に日本の領空をチェックしています。もし「不法に日本の空へ入って来ようとする航空機」を見つけると、すぐに「対処してください」と該当の部隊に連絡が入ります。
すると、基地で待機している戦闘機が緊急発進をし(これを「スクランブル発進」といいます)、不法に日本の空へ入って来ようとする航空機の近くまで飛んで行きます。そして「どこのどんな航空機なのか」を確認して監視し、もし日本の領空に入ってきたら出て行くように警告し、それでも出て行かない場合は追い返します。
24時間365日、スクランブル発進に備えています。
上記ニュース記事にもあるように、2016年度はこのスクランブル発進が1168回も行われました。単純計算で、1日あたり3回以上。これは、1958年に対領空侵犯措置を開始して以来、最多の回数です。2016年度の「不法に日本の空へ入って来ようとする航空機」の内訳(推定を含む)は、中国機が約73%の851回、ロシア機が約26%の301回、その他が約1%でした。
災害時以外は「なにをしているんだろう?」な自衛隊ですが、実は24時間365日、今このときも「不法に日本の空へ入って来ようとする航空機」に備えてレーダーを担当する隊員がチェックをし続け、そして戦闘機のパイロットや整備員はスクランブル発進に備えて待機し、必要があれば飛んで行って、日本の空を守っています。
海では護衛艦と潜水艦が常に監視を続けています。
緊急事態に備えているのは、航空自衛隊だけではありません。海上自衛隊も、日本の領海で「怪しい船や潜水艦、航空機はいないか」「弾道ミサイルが飛んで来ないか」を常に監視しています。
海上では、護衛艦が「なにか異常はないかな?」とチェックしています。護衛艦には「哨戒ヘリコプター」というヘリコプターも搭載されていて、護衛艦の甲板から離陸して付近を見て回ることもあります。
また海中では、潜水艦も同じように監視の任務に就いています。
どの船や潜水艦がどこでどのくらいの期間監視の任務に就くのかは機密事項です。ので、護衛艦や潜水艦の乗員は勤務のスケジュールを家族にも言えず、
>>長期出張だらけの自衛官。寂しい?それとも……?
でお話したように、奥さんが「旦那が朝、出勤したらそのまま帰ってこない……ああ、出港したのか。今度はいつ帰るんだろう。来週かなぁ、再来週かなぁ、もっと先かなぁ」なんてことになるワケです。
海を空からパトロールする、P-3C
海上では護衛艦が、海中では潜水艦が監視し、守っている日本の領海。
そしてさらに、「海上の空」から監視している人たちもいます。哨戒機「P-3C」です。
>>ヘリコプターから見る、陸・海・空の役割
では、「OH」、「CH」、「AH」、「UH」といったヘリコプターに付いているアルファベットのお話をしました。それぞれ、
・O:Observation(観測)
・C:Carry(輸送)
・A:Attack(攻撃)
・U:Utility(多用途)
とヘリコプターの持つ役割を表していて、「OH」は「観測ヘリコプター」、「CH」は「輸送ヘリコプター」、「AH」は「攻撃ヘリコプター」、「UH」は「多用途ヘリコプター」です。
では、「海上の空」から監視している哨戒機「P-3C」の「P」は何の頭文字かというと、「Patrol(パトロール)」です。私たちが暮らす街では、警察の「パトロール・カー=パトカー」が「なにか異常はないかな?」と見守ってくれていますよね。P-3Cは、海上を飛行して日本の領海を見守る「パトロール・プレーン」なんです。
海外でも、日本を守るためにパトロール中!
P-3Cは、日本の領海をパトロールするためにさまざまなハイテク機器を積んでいます。そしてそれらを操り、的確にお仕事をする能力は世界でも高い評価を得ています。
本来は「日本の領海をパトロールする」ためのP-3Cですが、その能力を活かし、現在ソマリア沖・アデン湾では「海賊から船を守る」という活動(海賊対処活動)も行っています。
ソマリア沖・アデン湾は、アジアとヨーロッパを結ぶ重要な航路です。海賊による被害が深刻になり、もしこの航路が通れなくなると、私たちが使っている燃料が輸入できなくなり、燃料だけでなく燃料を使って作られる製品も手に入らなくなるかもしれません。そして日本は輸出で成り立っている国なので、経済にも大きな影響を与えてしまい、景気の悪化、失業者の増加……なんてことにもなりかねません。
なので、ソマリア沖・アデン湾にはP-3C、さらに護衛艦も派遣されているんです。
護衛艦、潜水艦、P-3Cによる、日本の領海を守る活動。そして船を守り、日本を守る海賊対処活動。
こちらもあまり知られていませんが、「自衛隊が普段している活動」です。
哨戒機にはP-3Cの弟くん、P-1が登場!
ここでちょっと小話。
ここ数十年、海上自衛隊に配備されている哨戒機はP-3Cのみでしたが、現在は新しい哨戒機「P-1」というものもあります。2016年にニュージーランドで発生した地震では、P-1が被災状況を確認するために出動しました。
P-1はまだ数が少なく、なかなかお目にかかることは難しいのですが、神奈川県の厚木航空基地周辺では、運が良ければ上空を飛行しているP-1を見ることができるかもしれません。
また、海上自衛隊の航空基地で行われるイベントに登場したこともありますので、ぜひ今後行われるイベントもチェックしてみてください。
プロペラのP-3C、ジェットのP-1……と覚えてください。
P-3CとP-1の大きな違いは、「プロペラ」と「ジェット」。……というと、マニアにしか分からないように感じるかもしれませんが、こちらは機械が苦手な女子にも見た目で分かりやすいです。
P-3Cは、左右の翼に2つずつ、計4つのプロペラが付いています。一方、P-1はP-3Cのプロペラと同じ場所にまるいジェットエンジンが付いています。
くるくる回るプロペラのP-3C、まるいジェットのP-1。どちらも女子たちに「かわいい!」と人気ですので、ぜひみなさんも確かめてくださいね。
さて、今回は「自衛隊が普段している活動」のうち、①「国防の活動」のお話でした。
戦争などの有事ではない、平時のときに行う「国防の活動」は、「戦争が起こらないようにするための活動」と理解すると分かりやすいかもしれません。
では、次回からは「自衛隊が普段している活動」の残り2つ、
②国防や災害時の活動ための訓練
③活動や訓練のための業務
をご紹介します!
画像引用:陸上自衛隊HP/海上自衛隊HP/航空自衛隊HP
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